なぜ女性管理職は少ないのか
日本女子大学教授の大沢真知子さんらが書いた「なぜ女性管理職は少ないのか〜女性の昇進を妨げる要因を考える〜」を読んだ。
先日「男性育休の困難」を読んで綴ったが、その関連本として本書が出てきた。私の大学時代の研究室の教授が著者の1人で、私の興味関心のど真ん中だったので読んだ。
研究チックな書き方なので(実際に研究なのだが)、難しい部分もあったが、それだけ人の心理は奥深いものなんだなと改めて感じた。
本書は4章まである。全体を通しての女性管理職が少ない理由について、私としての理解は以下の通り。
・好意的性差別(女性にあえて女性らしい仕事を与えたり、気を遣って男性より易しい仕事を与える)によって女性の昇進意欲を無くしてしまう
・現在の女性管理職はスーパーウーマンの管理職しかほとんどおらず、自分には無理だと女性自身が諦める
・リーダー像として男性的側面をまず思い浮かべるので、女性が得意とする共感性等を生かしたリーダーは評価されにくい、かつ女性が男性的側面を持ってリーダーシップを発揮してもネガティブな認識をされてしまう
・既得権者の反発が強い(荒めの言い方で言うと、仕事ができない男性管理職が、優秀な女性が管理職に昇進して自分のポジションが無くなるのを恐れ、抵抗する)、女性を評価する管理職自体が男性なので適正に評価されない
これから細かいところを見ていき、その後に私が感じたことを意外な形式で(自分で先に盛る方式)最後に述べたいと思う。
第1章 女性の昇進を阻む心理的・社会的要因
女性の昇進意欲を促進する提案
1.管理職やリーダーシップを、決断力、タフさなど男性的な用語だけで語らないこと。生産性を高めるうえで有効なリーダーシップは一つではない。
2.リーダーシップや管理分野での女性の自己効力感を育むこと。有能な女性でも、ステレオタイプ脅威(女性は男性より劣っている等の考え)の悪影響を受けることがある。性別に関わらず、リーダー経験やその失敗体験から学習できるようにサポートすることが大切
3.適切なロールモデルを活用すること。子育てしながらも男並みに働くスーパーウーマンだけをロールモデルとするのはやめたほうがいい。男性並みに働くことがリーダーになるために必要であるという認識を持たせることになる。ロールモデルの多様化が必要。
4.好意的性差別(女性は男性から大切にされ、守られなければならない)に相当する行為(責任が重い仕事を女性に与えない、育児中の女性にチャレンジングな仕事を与えない)をなくすこと。
好意的性差別は、行為者側に悪意があるわけでは必ずしもなく、女性の側も差別と認識しにくい性差別。自尊心、自己効力感、昇進意欲を低下させすることなる。
第2章 女性管理職の声から考える
・今まで多くの人に助けてもらってここまでやってきたと思っているが、助けてもらえる人になったのは、自分が誰かを助けるのは当たり前だと思って仕事をしてきたからだと思う。嫌なことは率先してやってきた。見てくれる人がいるのかもしれないと思う。
・女性は完璧主義な人が多く、よく自分ではできないと思うと言う人が多いが、やってみること、断らないことが重要で、できない時は助けてくれと言えばいい。
・自分の枠を決めないで、身を委ねるともっといろいろな経験ができると思う
・まずやってみること。妊娠、出産、子育てをどう乗り越えようか、夫が転勤になったらどうしようかなど、やったことへの不安を持つ人も多いが、やりたいことがあればまずはやってみることが大事。やってみてダメだったらまた考えればいい
・他者を第一に考えること、嫌なことを率先してやること、面倒なことを引き受けること、人との関わりをうまくとっていけること
・管理職の女性が少ない理由を女性自身に求めるのではなく、職場や仕事の状況が女性にとって続けていきたいと思うものか、今一度考える必要がある。男性の管理職志向も他国と比べ低い。職場に管理職志向がなくなる構造があるのではないか。
・職場の上司も男性が多く、男性上司の女性部下への良かれと思う気遣いが女性部下の仕事のタスクを下げてチャンスを奪っている。女性部下も男性上司のようにはなれないと考えてしまう。
第3章 性差を超えた新たなリーダーシップ構築を
・リーダーシップに男女差がない、むしろ個人差の方が大きい
・認知者側の性的役割意識により男性のリーダーシップを高く評価し、女性の性役割を好意的に捉えるからこそ、女性のリーダーシップを低く評価する
第4章 ダイバーシティー&インクルージョンの必要性とその課題
・男性が持つ既得権をなくし男性にも女性にも平等に活躍の場が与えられること、そして公平な評価制度があり成果が直接報酬に反映されること、さらには働く場所に制約がなく個人の裁量で仕事ができること
・日本の女性活躍の段階が進み、政策や制度あるいは女性労働者を活用する上司の意識改革ということを超えて、女性にも意識転換を求める時代に入った
・それは女性も男性も働く時代になったと言うだけではなく男性も女性も自立した個人として自分の人生を引き受ける時代が来たことを意味する。そのためにはあえて空気を読まずに自分を尊重することが大切
・これまで女性活躍と言うと、そのためにどのような政策や制度を整えたらいいのかと言う議論が多かった。しかし、それだけでは女性の活躍は実現されない。男女ともに既存のジェンダー意識を問い直す新たな段階に入っている
この本を読んで私が感じたことを綴りたい。綴り方としては、この本を共同執筆した1人であり、大学でお世話になった研究室の教授に本を読んで考えたことを連絡したので(急な行動力発揮)、その文章を引用したいと思う。
卒業して4年も経つけれど、社会に出たからこそ社会心理学が生きる時、自分ごととして考えられる時が来たのだと思う。
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本に書いてある内容は、男性管理職しか周りにいない私の職場に当てはめ、どれも自分に落とし込むことができました。
私は総合職として入社して、男性と同じ量の仕事が与えられ、同じように仕事をこなしていると自分では思っていました。同じ部署の中で女性総合職は私以外には育休復帰直後の女性と、2年目の新人しかおらず、育休復帰直後の方は時短勤務なので易しめの業務が与えられているのかもしれない、新人はまだ入ったばかりで私が新人の時より手厚く教育を受けているなと思っていた程度でした。
この本を読んで、別の会社で働く友人に、男性社
員と女性社員で上司からの扱いが違うと思うかを聞いてみました。
迷うことなくYesという言葉が返ってきました。
同じ役職でも、与えられる仕事が男性社員と女性社員(既婚子持ち)で違う気がすると聞きました。家庭を持たぬ同士でも、上司から叱られる時、指導される時の当たられ方が全然違うとその人からは聞きました。
そう聞いた時、私は改めて男性社員と同じ量の仕事が与えられ、同じように仕事をこなしていると言えるだろうかと考えました。
できる限り客観的に見ても、私はそれなりに指導の言葉を頂くことも多く、特別に気を遣われているようには思っていませんでした。でも本当にそうなのかを考えました。無自覚の事実というのが1番怖いと思いました。知らぬうちに私は好意的性差別の下に生きており昇進意欲も失っている可能性もあると思いました。
機会があれば直接上司(男性)に聞いてみようかなと思いましたが、直接的に聞かず潜在的な面を実験するのが社会心理学でしたね。
そのような事から、本人が無自覚であったり、相手が良かれと思ってしている行動や言動で、私たち女性自身も考え方が作り上げられ、昇進意欲を失い、結果として女性管理職がいなくなるんだなと思いました。
私たちの世代は、スーパーウーマンではない女性管理職が多く生まれる世代なのだと思います。私自身は管理職になりたいという強い意識はありませんが、第2章女性管理職の人のインタビューで書いてあった、「自分の枠を決めないで、身を委ねるともっといろいろな経験ができると思う」という言葉通り、自分にはできないと遠慮したり謙遜するのでは無く、何でも巡って来たチャンスはものにして、流れに身を委ねれば、道はもっと開ける気がすると思いました。
今回、大学の頃興味を持った社会の仕組みや人の心理、行動の面白さを改めて感じることができました。毎日仕事で忙しなく、コロナ禍で働き方も大きく変わってきておりますが、これからも仕事も一生懸命に、日々の生活での学びも忘れずに頑張りたいと思います。
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先生からは、以下のような温かいご返信を頂いた。
・好意的性差別が「差別」であり、時に女性に有害な効果をもたらすということをは日本ではなかなか受け入れられない
・今はどこの企業も女性活躍推進法の縛りを受けていて、女性活躍に注力することが求められているが、伝統的な男性優位企業の管理職層は女性部下を管理職候補として育てた経験に乏しいので、いざ育てようと思っても接し方がわからず,つい「好意的性差別」的な行動になってしまう部分もあるかもしれない。
・あなたが今回好意的性差別のからくりに気づいてよかった。
・「スーパーウーマンではない女性管理職」がたくさん生まれてほしいと、先生も心から願っている
・あなたには豊富なチャレンジ精神とチャレンジを成功させるだけの力量があると思っているので、昇進のチャンスが来たときには躊躇なくチャレンジしてほしい
心理学専攻学生の中で唯一勝手に留学に飛び立ち、必須科目の単位を留学と引き換えに放棄してしまったり(後で無理矢理挽回して単位は取得した)、大学時代しか海外に沢山行けないから!と卒論の中間発表や卒論製本提出の直後に海外に行方をくらます破天荒な私だったが、同期と一緒に卒業まで見届けてくれた先生にはとても感謝している。
前にもどこかで書いたが、スーパーウーマンではなくてもこんな私にでもできるんだということを証明できる1人でありたいなと強く思う。
p.s.この本の話をオンライン英会話でフィリピン女性の先生にしたら、女性の方が何においても男性より上なんだから、優秀なんだから!これだけは本当だからね、女性マネージャーが7割で良いのよ!子供を生み立派な大人に育てられるのは女性なんだから!と日本人女性が失いがちな自己効力感満載の素晴らしいコメントを頂けたので、日本人女性も負けていられませんね。
エリー
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