負けたくないものに負けるな
人生で、頑張ってきたけれど、諦めなければならなかったことはありますか?
皆大なり小なり、何か感じるものがあるのではないだろうか。
NHKの朝のニュース「おはよう日本」で取り上げられていた「競歩王」という競歩を主題にした小説を読んだ。
この本は、実際の競歩選手を題材として書かれている。
競歩は、最初から競歩の競技をしている人はほとんどいなくて、多くの人は高校や大学で長距離走選手から転向する。
本の中の競歩選手(八千代)も同様で、大学で箱根駅伝を目標としていたが、チーム内で戦力外通告を受け、チームを辞めるか、マネージャーになるか、競歩に転向するかしかなかった。
競技を続けたかった八千代は、チームで唯一の、指導者もいない一人の競歩選手となることにした。
そんな姿を自分と重ねるのが主人公の大学生の小説家(榛名)。高校生の時に天才小説家としてデビューしたが、その後振るわず、スランプに陥っていた。
八千代と知り合った榛名は、競歩を題材として次の本を書くこととした。
はじめは打ち解けてくれなかった八千代も、徐々に打ち解けてくれるようになった。
榛名は、八千代のことを深く知って、応援していくうちに、自分の境遇を八千代と重ねていった。並行して、どんな小説を書くべきかを悩んだ。
「身の程知らずだってわかっても、上を目指してしまう。届かなくて、勝手に焦る。
挫折から始まるのは、いい。でもいつまでも挫折に引っ張られていると、呑み込まれて勝てるものも勝てなくなる。」
八千代はその時の成績からしては無謀ともいえる東京オリンピックを目指していた。
でも、箱根駅伝を諦めなければならなかった気持ちは常に持っていて、歩くよりも走りたいと思っていた。そんな気持ちを持ったままでは競歩で上にはいけなかった。
榛名が八千代を応援する言葉にも勇気づけられた。榛名は八千代を通して、自分自身のことも応援していた。
「大丈夫だ!
何が、どうして大丈夫なのか、言葉にできない。ただ「大丈夫だ」と彼に届けたかった。お前は大丈夫だと思っている人間がいると伝えたかった。」
「負けるな!
負けたくないものに負けるな。負けちゃいけないものに、負けるな。」
そのうちに、榛名は、競歩小説を書くにあたって、青春ヒーローの華々しいストーリーの方が売れるのだろうけれど、八千代の姿を知ったからには、普通の売れるであろう小説は書けない、書きたくないと思った。
「上手に夢を見られなかった人へ。いつか夢を諦めなくてはいけない人へ。それでも足搔いてしまう人へ。足搔いた上でやはり去らなければならなかった人へ。小説を書こう。俺は、そんな風に生きていこう。」
「一歩一歩だった。
泣きたくなるくらい、地道に、本当に少しずつだった。
まるで、彼のこれまでのようだ。結果が出なくても、勝てなくても、彼は歩いてきた。」
題材となった小林選手はインタビューで次のように述べている。
小林快選手
「悔しかった、つらかった、絶望だったって言うのはもう変えられない事実で。じゃあ競歩をしますって僕はいろんな思いがありながらも言った。というか決断したわけで、その決断をした時の自分に、今適当にやったらすごくその時の自分に失礼。」
作者の額賀澪さんは、この本を書いた経緯を以下のように語った。
額賀澪さん
「人生諦めなきゃいけないものっていっぱいあると思うんですよ。何かを頑張ったんだけど、実を結ばなかった自分ていうものをないがしろにせず大事にしててほしいし、君は逃げちゃったんだね、君は諦めちゃったんだねっていう言葉に何かこう対抗する物語として描きたかった。」
NHKおはよう日本 競歩王紹介サイト
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